ヒハツの伝統

ヒハツとは

ヒハツ(和名:ナガコショウ、英名:ロングペッパー)は東南アジアに分布するコショウ科の植物で、果実の乾燥物はコショウに似た風味を持つ香辛料です。インドなど東南アジアで栽培され、スパイスとして使われています。

 

ヒハツの特徴となる辛味成分は、ピペリンと呼ばれます。このピペリンの辛味は、トウガラシの辛味成分カプサイシンの100分の1程度で、カプサイシンのように汗が噴き出る程ではありませんが、穏やかに、じんわりとからだを温める働きがあります。

また特徴的な香りを持ち、コショウや唐辛子などの香辛料と同じように食欲を増進させ、消化を促進する作用があるといわれています。

世界で使われてきたヒハツ

インド・スリランカの伝統医学アーユルヴェーダにおいて、ヒハツはとてもよく利用される薬草の一つで、長寿を促す“最も強力な植物”とされています。

インドにはキッチンファーマシー(台所薬局)という考え方があります。これは、台所にあるスパイスなど身近にある食べ物で心と身体の不調を整えるという、昔から経験的に受け継がれてきた知恵です。インドでは台所にたくさんのスパイスが並べられており、家族の体調に合わせて料理に使うスパイスを選びます。また、何か不調を感じる場合は、台所にあるスパイスなどを摂るという習慣があります。

 

キッチンファーマシーの一つ「Tri-katu(トリカトゥ、三辛)」は、アーユルヴェーダでは定番の3つのスパイスであるコショウ、ショウガ、ヒハツを同量配合したもので、毒だしに良いとされているスパイスミックスです。アーユルヴェーダでは、体質に合ったスパイスやハーブを使うことが大切とされますが、この「Tri-katu(トリカトゥ、三辛)」は、アーユルヴェーダにおける3つの体質すべてにおいて、おすすめとされるスパイスミックスです。ブレンドしたスパイスを摂ることで、毒素を溜めない身体になると考えられており、身体のエネルギー活動を高めるとして重要なものなのです。

中国では、ヒハツ(蓽撥)の性味は辛熱で、腸胃にある寒邪を温散するものとして古くから利用されてきました。また、飲膳太医・忽思慧(こつしすい)の「飲膳正要」には、ヒハツを使用した料理の調理法が多く記載されています。

日本においても、奈良時代に唐から伝わり、古くから胃腸の働きを元気にするものとして利用されてきました。現代ではあまり馴染みがありませんが、昔から使われてきた植物だったのです。また沖縄ではヒハツモドキが自生しており、「寒さをとる」香辛料として利用されています。